海の記憶
The memory of the sea
幼少の時から絵を描くことが好きではなかった。
不要になった広告用紙で立体物を作っていた。
手で造形し、テープで補強する。
特定の具象物にはならなかったが自分なりの正解を造形できた時は満足していたと思う。
幼少期のころの記憶は必ず海が入ってくる。
長崎県のリアス式海岸で親友と釣りをしていた記憶。
祖父が連れて行ってくれた砂浜の記憶。
どの記憶も現代の言葉で書き留めておくことができない曖昧で非平面的なものたちである。
この作品はそんな記憶を具現化した『文字』としてつくった。
海の砂や工業的な添加物を混ぜ込んだ粘土で造形した。
表面には海のリズムをイメージした自作の文字を針で掻き落として焼成した。
今も変容する記憶の形を、先回りしてつかまえてみる。
From a very young age, he did not like to draw. He used to make three-dimensional objects out of advertising paper that he no longer needed. He sculpted them by hand and reinforced them with tape. I think I was satisfied when I could sculpt my own correct solution, even though it did not turn out to be a specific figurative object. My childhood memories always include the sea. I remember fishing with my best friend on the rias coast of Nagasaki Prefecture. Memories of the sandy beach my grandfather took me to. All of these memories are vague and non-planar things that cannot be written down in modern language. I created this work as a "letter" embodying such memories. The work was sculpted with clay mixed with sea sand and industrial additives. On the surface, I scratched off with a needle the letters of my own composition, inspired by the rhythm of the sea, and fired them. I try to anticipate and catch the shape of memory that is still transforming.
The memory of the sea
2021年-
混合セラミック/ 真鍮/ 木
本シリーズは記憶のカタチを現像する『全方位的な書』作品です。
自身の故郷の記憶を形状として捉え、手によって立体化する行為によって、失われつつある記憶のイメージをログとして残していきます。この行為には必ず自己身体が必要であり、本作は自意識と物体が同一の身体性を持つものです。
本作は故郷の海の砂や、旅をした土地の土、マンガンといった工業的な物質を即興で混ぜ込んだ陶土で造形をしています。これに黒色の泥漿を塗り、『記憶のリズム』を表す文字列をオブジェ一面に掻き落として刻み込んでいます。これらは一度のみ焼成され、形状が定着し、永続性の高い物質として現像されます。
私は、その社会構造による自己身体性の欠如 / 剥離に悩まされていた時期があり、自己のピント合わせの行為として本作を作成し続けています。
